不器用な男





夜が近づいている。うっすらと暗くなり、月が街を照らすような時刻になった。

…その頃…

 

「よぅ。」

 

人気のない夜の公園、リョウはバイクにまたがったままそこにいた。

 

「なんなんだい?こんなとこに呼び出して。」

 

キングが不機嫌そうな顔で腕を組み、リョウを睨んだ。

 

「悪いな。」

「全くだ!私はあんたみたいに暇じゃないんだよ。」

 

リョウはバイクから降り、ははは、と笑った。

 

「いやぁ、悪い悪い」

「…謝る気がないなら最初から謝るな、馬鹿。で?何の用なんだい?さっさとしてくれ。」

 

キングはイライラした様子で、頭をガリガリとかいた。

ふぅ、と一息吐くリョウは、満面の笑みを浮かべてハッキリとこう言った。

 

「組み手しようぜ!」

 

いきなりのリョウの発言に、キングは耳を疑った。

 

「な、なんだいきなり…何言ってんだい!?」

「いや、だから、組み手しようって言ってるんだが?」

 

リョウはあっけらかんとした表情で言うと、キングは呆れ顔だった。

 

「馬鹿馬鹿しい。そんなのは延び盛りの妹か、まだまだ現役の親父さん相手にやってくれよ。」

 

くるりとリョウに背を向けキングは帰ろうとしたが、勢い良くリョウの方に向き返す。

 

「何の真似だ。」

 

キングは背後から向かってきた拳を止めた。

 

「逃げるのか?」

 

リョウの挑発的な目がキングの格闘家としての本能を刺激する。

じっとリョウを睨み返した。

 

「そんなに私と踊りたいのかい。」

 

数歩後ろに下がり、キングはいつもの構えをとる。

 

「その前に、何で私なのか、理由だけはっきりさせてもらいたいね。」

「それは…その、そう!新しい技閃いてさ、違う格闘スタイルの人間に試してみたかったんだ。」

 

リョウは少し焦った様子で答えた。

 

「はぁ?そんなのユリのアレンジ入った空手で十分だろ。」

 

キングが構えを緩めると、リョウは首を振った。

 

「い、いいからやろうぜ。せっかく来たんだから。」

「…せっかくって、あんたが呼んだんだろ…。」

 

ふぅ、と一息吐くと、キングの目が格闘家の目になる。

 

「あんたが誘ってきたんだ。満足させておくれよ!」

 

そう言って人差し指で手招きをする。リョウは頬を叩き、二歩下がって構えた。

 

「さぁ、かかってきな、ぼうや」

「ば、バカにするなよ―」

 

少し乱れたリョウの拳が、キングの左頬をかすめた。キングは軽々と避け、リョウの大腿に鋭い蹴りを入れる。

リョウはそれをジャンプでかわす。そのまま鋭い手刀を繰り出し、キングの頭上を狙う。が、キングはそれも軽々とかわす。

リョウの息は乱れていた。

 

「どうしたんだい?このくらいでそんなに乱して。」

 

いつものリョウとは違う様子に、キングは気持ちを緩めずに言った。

 

「べ、別に…なんでもない!!」

 

リョウはがむしゃらに拳を突き出すが、キングはまたそれを手で止めた。

 

「心の乱れは表に出るよ。今のあんたとやっても面白くない。」

 

その受けとめた拳を、ぐっと握る。

 

「…くっ…」

 

自分よりも細く小さな手が、自分の手に痛みを伝える。

 

「それに…新しい技はどうした?」

 

キングはリョウの拳をさらに強く握り、睨んだ。

リョウは冷や汗を垂らし、わざとそっぽを向く。嫌な予感がキングを襲う。

 

「…まさか…」

「……嘘…です。」

 

キングの予感は的中した。

握っていた拳を放し、素早い動作でリョウの襟元を掴んだ。

 

「ふざけるなよ、リョウ!」

 

キングは鋭い目でリョウを睨む。

リョウは襟元を掴むキングの手首を握る。

 

「お、落ち着け、キング!」

「落ち着けもくそもあるか!何の恨みがあって私を呼び出した!?」

 

声を荒げるキングから目を逸らしたリョウは、空いている手でポリポリと頭をかいた。

 

「あ、あのな…怒らないで聞いてくれよ?」

 

リョウのそわそわした様子にすっかり冷めてしまったキングは、手首を掴むリョウの手を払った。

 

「わかった。聞いてやる。」

「あ、あぁ…その…」

「早くしろ!」

 

キングの荒々しい声にリョウはびくっとし、キングの目を見ないで答えた。

 

「今日…誕生日なんだ、俺。」

 

その思いもよらない一言に、キングはきょとんとした。

 

「だ、誰も祝ってくれなくて…」

 

キングは何も言わず下を向く。リョウはまずいと感じて慌てて言葉を続けた。

 

「お、怒るのも無理ないけどさ、その…何もないのって淋しいんだぜ?な、なぁ!」

 

少し震えているキングから遠ざかりながら言った。

 

「…リョウ」

「は、はい!」

 

キングは一歩リョウに近づき、リョウの目の前に拳を突き出した。

そんなキングの心理をはかり兼ねないでいたリョウは、ガチガチになっていた。

 

「…ふふ」

 

顔を上げたキングは、クスクスと笑っていた。

 

「馬鹿じゃないの?あはははは!」

 

キングは突き出した拳を自分の腹に持っていき、大笑いした。

 

「わ、笑うなよ!」

「だって…あんたいくつになったんだよ、もぅ!」

 

涙目になるまで笑い、不貞腐れるリョウに接近する。

リョウは少しどきっとして、動けずにいた。

 

「で、何で私を呼び出したんだい?」

 

余裕があるキングはにやにやと笑い、じりじりとリョウに近づく。

 

「私に祝ってほしかったってコト?」

 

わざと顔を近付けて言うと、リョウはまた目を逸らした。

 

「お、親父やユリ相手にこんなことできないだろ?」

「まぁそうだけど…一つ言わせてくれる?」

 

近付けた顔を戻し、緊張するリョウの手を握った。

 

「そういうのは、人の誕生日を祝った人が言うもんだと思わなかったか?」

 

と言って、軽く睨む。

 

「あ…」

 

四月、キングの誕生日を祝ってやらなかったリョウは、完全に逃げ場をなくしていた。

 

「しかも呼び出して組み手って…誕生日と何が関係してんだよ。」

「その…ただ…」

 

「ただ?」

 

リョウはもう真っ赤になっていた。

 

「とりあえず…みたいな感じか?」

 

そんな曖昧な返事をなんとなく想像していたのか、キングは呆れていた。

 

「ほんと、馬鹿だよ、あんたは。」

 

握っていたリョウの手を放し、ため息を吐いた。

 

「呼び出したはいいけどさ、いきなり誕生日っつっても微妙だろ?」

「こんな時間にいきなり組み手しようぜって言うのは微妙じゃないのか?」

 

簡単に勝敗の予想がつく試合のような言い合いは、キングの次の一言で幕を閉じた。

 

「だったらうちの店に来て、今日誕生日なんだって言ってくれればよかったんだよ。そうしたら酒くらいおごってやったのに」

「あ〜、そう、だな…。」

 

可哀相だったかな?と思いながら、キングが再びリョウに近付こうとした…その時…。

 

―グ〜―

 

リョウの腹から間の抜けた音が出た。

 

「…腹、へってんの?」

「…あぁ」

「ぷっ…はははは」

 

キングは吹き出して大笑いした。

 

「お、お前、さっきから人のこと笑いすぎだ!!」

 

リョウは軽くキングの頭に手刀をいれた。

 

「ごめんごめん!…なぁ」

「なんだ?」

 

キングは目に溜まった涙を指で拭った。

 

「ご飯食べに行くか!おごってやるからさ。」

 

そう言ってリョウに笑いかけた。リョウは照れくさそうに笑い返した。

 

「あぁ…お言葉に甘えて、行くか!」

 

二人はバイクにまたがり、公園をあとにしたのだった。

 

 

 

―その時サカザキ家では…―

 

「お兄ちゃんはどこに行ったの!?」

 

サカザキ家では、ユリとタクマがイライラした様子でテーブルを囲っていた。

そのテーブルには、てんこもりの蕎麦。この家ではバースデーケーキの代わりに蕎麦を食べるらしい。

 

「帰ってきたら、ちょう!アッパーだっチ!!」

 

 

幸せいっぱいで帰ってきたリョウがその後どうなかったかは…言うまでもない…。

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

ぐだぐだした感じのお話でした…。

本来はリョウの誕生日にアップするものだとは思いますが…本当のリョウの誕生日には別のものを企画しています!

もう、どうしようこれ…。

 

 

 

 

 

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