大人の女





「疲れた…」

「私も、デッキの掃除でクタクタよ。」

 

独り言のつもりで下士官用のシャワールームに入ると、先にいたフレイが服を脱ぎながら答えてくれた。

 

「よくわかんないけど、本当にいっぱいゴミが落ちてるのよ、あそこ!それに汗臭いし…嫌になるわ!!」

「デッキも広いからねぇ…」

 

ぶつくさ文句を吐くフレイに、刺激しないよう無難な言葉を返す。

 

「ほう、自分から志願した割には文句が多いではないか、アルスター二等兵?」

 

聞きなれた声に、思わず振り返った。声自体は聞きなれてはいるが、ここでは聞いたことがなかった。

 

「!!バジルール中尉!!!」

「部屋のシャワーが壊れたんだ。使わせてもらうぞ。」

 

緊張して固まった私たちに構わず、声の主のバジルール中尉は空いたカゴの前で服を脱ぎ始めていた。

そう、私たち下士官と違い、仕官部屋には備え付けのシャワールームがある。だから、ここで中尉に会うのは初めてだった。

 

「…何を固まっている?時間の無駄だぞ。」

「は、はい…」

 

訳もわからず緊張していた私は、慌てて服に手をかけた。

ちらりとフレイを見る。フレイの動きが止まっている。

 

「…バジルール中尉…」

「?どうした?」

 

フレイは中尉をじっと見つめていた。

 

「中尉は、着痩せするタイプなんですね。」

 

何を言い出すのかと思った。あのバジルール中尉にそんなこと言うなんて…。

お嬢様は怖いもの知らずなんだって思った。

着痩せするって…『胸が小さく見える』か『実は太ってるんだ』って遠まわしに言ってるようなもんだ。

フレイは私より1つ下なのに、大きい。スタイル抜群だ。ホント神様って不公平だと思う。

 

「そうか?…筋肉質だから締まってると思っていたんだがな…」

 

中尉はどうやら後者の方に捉えたらしい。でもフレイが言いたいのは絶対前者だ。

あのウエストを見て『太ってる』なんて言う人がいたら見てみたい。

 

「違います。胸ですよ。見た目より大きいんですね。何カップですか?」

 

あぁ、ホントフレイって…。一瞬この場から立ち去ろうと思った。…でもすぐに気が変わった。

中尉の顔が赤い。表情から、怒っているのではなく恥ずかしさからの赤みだとわかったから。

 

「き、君よりは…小さいだろう…」

 

やっぱり中尉から見ても、フレイは大きいんだ。15歳でこの色気は反則だもん。

それより今の中尉の表情が可愛くてしょうがない!こんな顔見たことない!!

 

「まぁ1番はどう見ても艦長ですよね。でも、多分中尉の方が形はキレイですよ。」

 

…あぁ、確かに中尉は美乳かもしれない。

大きさも形も「(多分)普通」の私には羨ましくてしょうがない。

 

「そ、そんなことない!!」

 

慌てた反応…。本当に可愛いって思った。

 

「いいですね、私なんてどっちもないですもん。」

 

このまま黙ってても居心地が悪い。どうせなら1人の時には言えない事を言っておこうと思った。

 

「君はこれからだろう?まだ若いんだ。いくらでも大きくなる。」

「そーよ、トールだっているんだから、大きくしてもらえるじゃない?」

 

もう嫌!!何も中尉のいる前で言わなくてもいいじゃない!?

今は作戦行動中。規律に厳しい中尉の前で「交際してる」ことに触れないで欲しい。

 

「殿方に大きくしてもらうとはよく聞くが、科学的に証拠がないものだ。信じてるのか?」

 

あれ…?怒られるかと思った。でもなんとなく中尉らしい意見だった。

 

「あら、これは気持ちの問題ですよ、中尉?好きな相手限定なんです。

ほら、想像妊娠ってあるじゃないですか。あれだって実際妊娠していないのに、生理が止まったり、お腹が大きくなったり、

つわりがきたり、胸が張ったりするじゃないですか、気持ちだけで。」

 

フレイの意外な例えに、中尉が感心するように頷いていた。

 

「そうか、なるほど…人類の神秘だな。」

「…で、中尉はどちらの殿方に大きくしていただく予定なんですか?」

 

馬鹿馬鹿!フレイの馬鹿!!折角穏やかな空間だったのに!!

ちらりと中尉を見る。…あれ?固まってる…

 

「ば、馬鹿者!!」

 

それだけ言って、逃げるようにシャワーブースに入っていった。

 

「…あれはやばいって、フレイ…」

「だって…中尉だって女でしょ?!あんなにキレイなんだし、男の1人や2人いたっておかしくないじゃない!」

 

私のツッコミに頬を膨らませるフレイ。

確かに中尉はすごくキレイだけど…誰よりも規律に厳しい中尉に、今男の人がいるとは思えない…。

あ、でも、もしかしたら…

 

「候補なら、いるかも…」

 

トールに聞いたことがある。中尉を好意丸出しで見つめてる人がいるって…。

 

「誰?!やっぱブリッジにいる人なの???」

 

フレイは興味津々で私に迫る。しまった、言わなきゃよかった…。

でも、自分がフレイの立場だったら同じことしてただろうな…。

 

「…ノイマン少尉…」

「うっそぉ??!!中尉、ノイマン少尉のこと好きなの?!」

 

…そんなでかい声じゃ中尉に聞こえるでしょうに…まぁ、私の声も聞こえてると思うし、もういっか…

 

「違うわよ、ノイマン少尉が、中尉を…よ。噂だけどね。」

「…な〜んだぁ…でも、2人って同い年よね?私、中尉には年上がいいと思うんだけどなぁ〜」

「そうかしら?私は少尉と中尉、お似合いだと思うけど?」

「いや〜!だって少尉って、中尉と身長変わらないでしょ?!絵にならない〜!」

 

フレイの理想は置いといて、私はノイマン少尉とバジルール中尉は本当にお似合いだと思う。

2人が並んで同じ書類を見ている時とか、ちょっと見惚れてしまう。

 

(有能で頑張り屋の女上司を影でしっかり支える部下…いいと思うけど…)

 

そんなこと考えてるうちに、奥から「ばたんっ!」、という大きな音が聞こえた。

振り返ると、バスタオルを巻いた中尉が閉めた扉の前で俯いていた。

 

(やっば〜…怒ってるでしょ、あれは…)

(し、知らないわよ…)

 

怒られることを覚悟した私たちは、並んで姿勢を正し、棒立ち状態。

中尉が近づいてくる…思わず目を瞑った。

 

…?しばらくしても何も起きない。

恐る恐る目を開けると、中尉は洗面台の前で口を押さえて真っ赤になっていた。

 

「…そんな噂、どこのどいつが流したかしらんが…少尉に迷惑だ、これ以上流すなよ。」

 

…照れてるんだ!!!

今日は中尉の意外な反応をいくつも見ている。なんだか嬉しくなった。

隣を見ると、フレイも嬉しいのか、ニヤニヤしていた…なんか企んでるようにも見えた…。

 

「みんな、中尉を射止める殿方が誰だか気になってるんですよ〜☆」

 

確かにそうだけど…今日何度目かわからないフレイの余計な言動に溜息が出た。

 

「だ、誰だってよかろう!?さっさとシャワーを浴びろ!!」

 

振り返った中尉の顔に、一瞬ドキッとした。

あ、スッピンなんだ…初めて見た…。

 

「わ〜!!中尉って、肌キレイなんですね!い〜なぁ〜!!」

 

フレイも思ったんだ。中尉はスッピンだといつもの印象より優しげで、愛らしい感じだ。思わず見惚れてしまう…。

表情だけじゃない、身体の線も…キレイ。

 

「お世辞はいい!!…それに、若い君たちに言われたくない…」

 

お世辞なんかではない。それに、中尉だってまだ若い。

私たちは若いんじゃなくて、子どもなのだ。中尉は大人の魅力があるんだ。

 

「中尉は本当にキレイですよ。私たちも早く大人になりたいです!!」

 

真面目くさって言うと、中尉の頬がますます赤くなっている。

 

「…人は嫌でも大人になる。君たちは、今しか出来ないことをしていればいい。」

 

赤くなったまま、ふっと優しい笑顔が返ってきた。

 

中尉は服を着ると、そのままシャワー室を出て行った。

 

 

 

「あ〜あ…また中尉に怒られちった〜」

「トールが遅刻するのが悪いんだろ?」

 

次の日、食堂でトールとサイと私はしばしの休息をとっていた。

 

「そういえば、今日なんだかノイマン少尉、ご機嫌だったよね?」

 

さっき廊下ですれちがったノイマン少尉は、いつもと違ってしまりのない顔をしていた。

 

「よく気付いたな、ミリィ!それがさ〜、中尉が少尉に差し入れ持ってきたんだよ!!」

「え!?本当?」

「そっか、CICにいたから知らなかった…」

 

もしかしたら…昨日のこと…

 

「あのおっかない中尉がさぁ〜…意外だったなぁ」

「あら、中尉だって立派な女だもの!それくらいするわよ☆」

「え〜…でもあの中尉がだよ?」

 

トールとサイのマヌケな顔を見たら、なんだか得意になった。

そう、中尉が少尉に差し入れしたきっかけを作ったのは、私とフレイだから…。

2人は中尉の可愛い姿を知らない。女だけの秘密にしておこうと思った。

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

やっとまとまった(?)〜!!今回はミリィ語りのお話です。

時間軸は…16話前日?いや、それって…フレイとキラの…はう!!じゃあシャワーの後、フレイはキラの元へ?

まぁ…いつも時間軸考えずに打ってるので今更…かなぁ?

今回のテーマは、「大人と子供」です。ナタル、子供に完全に遊ばれています!!

ナタルのスレンダーボディに釘付けの2人。セクハラフレイ、慌てるナタル…色々書けて楽しかったです。

文は…ひどいですけどね…(苦)毎回ですね。

そういやさりげなくノイ→ナタです。子供にバレバレってどうよ、ノイマン?!

自分のナタルは「可愛さ」を意識しているので、ナタルの乙女な部分を書けて、色んな意味で満足です。

 

 

 

☆おまけ☆

 

「なぁトノムラ、他に人がいるのに、自分だけに差し入れ持ってくるのって、意味あると思うか?」

「え〜?…そうですね、意識されてるんじゃないですか?」

「そっか…」(ニヤニヤ…)

「…ニヤニヤしてるとこを見ると…まさか中尉から…?」

「うっ…だ、誰だっていいだろ?!」

「中尉からか〜…そうなると、なんだか他意はなさそうっすね?」

「なっ…!!!…そうだよな…中尉が俺なんかに…」

(…やっべ、拗ねちった…)

 

 

 わかりやすい男、ノイマン&空気の読めない男、トノムラでした…。

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system