理想の彼氏





敵方からの攻撃もない、比較的穏やかな戦艦内。

休憩中のクルー達がそれぞれ団欒している。
そんな中にも、威圧感たっぷりの人間がひとり。
 
副長のナタルである。
 
厳しいことで知られる彼女に、休憩中まで好き好んで近付く人間はそういない。
彼女自身、誰が来ようと来なかろうと全く気にしていないのだが。
そんな中たったひとり、ガラガラの食堂内でわざわざ彼女の前にトレーを置いた人物がいた。
 
「中尉、ここいいですか?」
 
そこにいたのは、最近軍に正式に入隊した子供達のひとり、ミリアリアだった。
彼女は普段ナタルが指揮するCICでオペレーターをしている。
だからなのか、それとも全く意識していないのか、ナタルにも普通に絡んでくる。
 
「あぁ、かまわん。ひとりか?」
「はい。みんなシフトです。」
「そうか。」
 
ミリアリアは「失礼します」と言ってナタルの目の前に座った。
構わずにトレーに乗った食べ物を黙々と口に運ぶナタル。
そんな彼女の耳に、大きな溜息が入ってきた。
 
「どうした。」
「あの、中尉、」
 
ナタルが反応したのを確認しながら、ミリアリアは口を開く。
 
「いい男の条件って、何だと思います?」
 
ナタルは思いも寄らぬ突然の質問に顔をしかめた。
その会話を、耳をすませて聞いている人間がいた。
 
・・・・・・・・・
 
数分前

 

「お疲れです、ノイマンさん!」

「トノムラか。お疲れ。」

 

食事休憩で艦橋を出たノイマンは、シフト上がりのトノムラと一緒に食堂に向かった。

 

「あ、今中尉も食事休憩ですよ!」

「だ、だからどうした

「いやー、お邪魔だったら………アレ?ハウがいる。」

 

食堂に入ると、ミリアリアがちょうどナタルに声をかけているところだった。

一瞬残念そうな顔をしたノイマンを、トノムラは見逃さない。

 

「残念でしたね。」

「べ、別に。」

 

ノイマンはさっさとトレーを手に取る。トノムラも慌ててその後を追った。

 

「折角だから混ぜてもらいます?」

いや、なんかハウが真剣な顔をしてるぞ?」

 

いつも明るいミリアリアが、珍しく笑顔を見せていない。そのうえなんとなくピリピリした空気だ。

流石のトノムラもそれを感じ、二人はそのまま近くに座った。

 

「中尉、いい男の条件って、何だと思います?」

 

ふと聞こえた言葉に、ノイマンとトノムラは顔をあげた。

 

「どうした、いきなり。」

「あのですね以前友達に、どうしてトールと付き合ってるのかって聞かれたことがあって

「好きだからじゃないのか?」

「好きだからなんですけど…トールにはいい男の条件が揃ってないって言われて。」

 

大きな溜息を吐き、ミリアリアはフォークを置いて机に肘をついた。

 

「言われた時は気にしてなかったんですけど、最近のトールを見てると…悩んじゃうんです。」

「何故だ?彼はしっかりやっているではないか。恥じる必要はないと思うが。」

 

言われたミリアリアはまた溜息を吐く。

 

「確かに、しっかりしてるんですけどね…ここ数日構ってもらえてないんです。」

「そのいい男の条件とはどんな関係があるんだ。」

 

なかなか話が見えてこないことにイライラし始めたナタルは、食後に用意したカフェオレを飲み始めていた。

そんな態度に焦って、ミリアリアは本題に入る。

 

「わかると思いますけど、トールって機械とか大好きなんです。もちろんトール以外も、機械は好きなんですけど…」

 

ここにいる元民間人の学生たちは、みなそれなりに優秀なクルーとして働いている。

トールは副操縦士としてしっかり自分のサポートをしている…と、こっそり聞いているノイマンは一人頷いた。

 

「最近気がつくと、いっつも格納庫行ったり、整備班の人たちとしゃべってたりで、全然相手してくれないんです!!」

 

つまりはそれが言いたかったのだろう…。

ナタルは先ほど彼女が吐いたものに負けないくらい大きな溜息を吐いた。

 

「普通の民間人には踏み込めない場所だしな。しかしそれは単に恋人への不満だろう、いい男の条件となんの関係がある?」

 

いつまでたっても話が進まず逸れていくのに耐えられなくなったのか、ナタルの物言いはどんどんきつくなっていく。

しかし、自分が話したことで色々思い出したのか、ミリアリアも負けないくらいきつい。  

 

「友達が言ったいい男の条件!なによりもまず彼女との時間を大切にすること!!なんです!!!」

 

力の入ったミリアリアは立ち上がって言った。

ナタルは真っ赤になって立ち上がった少女を座らせ、「こほん」と咳払いし、口を開く。

 

「わ、わかったわかった…。つまりは相手にされないことが不満…やはりそういうことじゃないのか?」

 

ミリアリアを見ると、腕を組み、頬を膨らませ、いかにも「怒ってます!」という風だった。

 

「結論はそうです!でも、そのいい男の条件に見事逸れてきてるので、
自分に見る目がないのか心配になってきたんです!!」

 

多少開き直り気味の少女は、乱暴にスプーンでおかずを掬って食べた。

 

「自信がないのか?」

「…ちょっと。」

 

いつもとは違う彼女の態度に戸惑いつつも、ナタルは真剣に話し始めた。

 

「しかし、そんなものは人によって違う。例えば、そう、身体的特徴とか。」

「身体的特徴?」

「そう、一般的に、女は自分より背の高い男を好むみたいだが、お前はどうだ?」

 

その言葉に過敏に反応したのは、背後で盗み聞きしていたノイマンだった。

そう、ノイマンはナタルのことが気になっている。
そして、自分が彼女より背が低いことを気にしていた。

 

「もしケーニヒがお前より小さかったら、恋人にはならなかったか?」

「…そんなことはないと思いますけど…」

「だろう?私は、自分より低くても構わん。そんなのを気にしていたらキリがないからな。」

 

「…よかったっすね、ノイマンさん。」

「…ま、まぁ…」

 

ミリアリアは真剣に話すナタルの顔を見ながら頷いていた。

 

「それに、私は何か夢中になるものをもつ男は嫌いじゃないぞ。」

「そうですか…そうですよね…。」

「…今までと環境が変わったんだ。不安なのだろう?でも彼なら大丈夫だ。自身を持て。」

 

ナタルは優しく微笑み、手を伸ばしてミリアリアの髪を撫でてやった。

ミリアリアは照れくさそうに微笑み返し、ナタルの手が離れると食事を再開したのだった。

 

「そういえば…中尉って、具体的に理想の人っているんですか?」

「あぁ、いるぞ。」

「えー?!どんな人ですか?!軍にいるんですか?」

「あぁ。」

「誰ですか?!」

 

「ノイマンさん、不自然ですよ。」

 

必要以上に身体を乗り出しているノイマンにトノムラは冷静に突っ込んだ。

ノイマンははっとして姿勢を正す。しかし、耳はしっかりと傾けて。

 

「父だ。」

「………お父様、ですか??」

「あぁ…。」

 

キョトンとしたミリアリアを見ながら、ナタルは続けた。

 

「私は父以上の男じゃないと男と見れないみたいでな。」

「そ、そう、ですか…」

 

「ノイマンさん…高いハードルですよ。」

「…バジルール中尉の父上じゃ…俺一生無理かも…」

「大丈夫ですよ、いつか現実が見えてくるんじゃないですか?」

「現実て…」

「中尉のファザコン、治してあげてくださいね。」

 

男たちは溜息を漏らしながら席を立っていった…。

 

「あの時の父は本当に素晴らしかった。あの日から決めたんだ、私は父のような人と結婚…おい、聞いてるのか?!」

「あ、す、すいません…」

 

ナタルに相談して正解…だったのだが、照れ隠しに聞いた一言でまさかこうなるとは…

ミリアリアは少し後悔しながら食後の紅茶をすすった。

 

ナタルの熱弁はその後1時間続いたという。

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

ナタルの理想の男性はきっとお父さん。こういう話を書くときはこうだと決めておりました!

久しぶりにミリィをメインに持って来ました。やはりミリィはいいです。大好きです!!

トールはお調子者ですが、とてもしっかり者ですよね!ムードメーカー的なポジションでいいです!

ミリィとトールって、いい感じにつり合ってますよね。いいカップルだ。

そしてノイマンとトノムラは背景(笑)ノイマンにツッコミいれるトノムラ好きです。

 

さてさて、今回はなんと挿絵付きでございます!!忙しい中お願いしました。

こんな文でもこんな素敵な挿絵が描けるんですね!感動です\(TT)

でも編集がうまくできなくて…せっかくの挿絵を活かせる編集になってるのだろうか(T_T)

今回挿絵を描いてくださったのは、以前も素敵ナタルをいただきました、もみ子さんです!

素敵な絵がもっと見たい方はリンクページへ☆

もみ子さん、本当にありがとうございました!!

 

 

 

☆おまけ☆

 

「あれ?どうしたんだミリィ、顔色悪くないか?」

 

「あ、トール…ううん、大丈夫よ。」

 

「ホントか?無理するなよ!」

 

「ありがとう……やっぱりトールでよかったな。」

 

「??何が??」

 

「えへへ、なんでもない!!」

 

「???なんだよー!!」

 

 

ホントいい子達ですね〜(^^)

 

 

 

 

 

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