あなただから…
感じなれていない、頬にあたる硬い感触に戸惑った。
そっと顔を上げる。安らかで柔らかい寝顔が見える。
私は彼の胸の中にいた。
男にしては小柄な身体も、女として大柄な自分をいとも簡単に包んでしまうことには驚いた。
再びその胸に顔を埋め、つい数時間前のことを思い出す。
知らなかった。この人に、あんな情熱があったなんて。
いつも冷静で、真面目に任務をこなして…。
でも、あの時の彼の目は、すごく情熱的だった。
何度も何度も私の名前を囁き、抱きしめ、私を昂めていく…
気付いたときには、もう自分が自分でなくなっていた…。
再び寝顔を覗いてみる。
思ったより長い睫毛、少年のような幼い寝顔…
もともと童顔だと思っていたが、寝ている姿は余計に幼なかった。
「ん……」
うっすらと開いた口から小さな声が漏れる。
つい人差し指でその唇に触れてしまった。
私の名前を呼び、私に触れた唇…。
「…ナタル?」
いきなり名前が呼ばれた。その声にはっとして指を引っ込めようとしたら、すぐにその指を掴まれた。
そのまま指先にキスを受け、そっと解放された。
「起きてたんですか?」
「…少し前に目が覚めたんだ。」
真っ直ぐ見つめる視線に耐えられず、胸に蹲った。
そのまま逞しい腕が背中に回され、ぎゅっと抱きしめられた。
「よかった。」
「…?何がだ?」
ほっとしたように呟く彼は、息が苦しくなるほど強く私を抱いた。
「目が覚めてあなたがいなかったらとか、実は夢でしたとか…色々考えちゃって。」
…以外だった…。
あんなに力強く私を抱いていたのに、そんな不安を抱えていたなんて…。
それほどまでに愛されていたのか。そう思ったら目頭が熱くなった。
「…私は、どこにも行かない。黙って消えたりしないから…」
「…ナタル、泣いて…。」
「泣いて…ない。」
誤魔化そうとしても、声が震えている。説得力がない。
「…どうして私をそんなに思ってくれるの…?」
たった一晩で感じた思いの強さ。
こんなに愛される理由がわからない。わからないから、私も不安だった。
「…あなただからです。」
「…?」
はっきりとした答え。でも、よくわからない…。
「私、だから?」
「はい。あなたが、ナタル・バジルールだからです。」
「…わ、わからん!!」
「じゃあ、考えてください。」
満面の笑顔を返され、これ以上言葉を返すことができなかった。
「あなたは?どうして俺に抱かれたんです?」
…あ…。………何故…?
「……お前が…アーノルド・ノイマンだから…」
「…ほらね?」
…そうなのだ、私と…同じなのだ。
「…泣く時は、俺の前だけで泣いてくださいね?」
目元に感じた熱く柔らかな唇の感触。
アーノルドの頬に手を添えると、自然と唇が重なっていた。
「もう!!お前のせいで寝坊してしまった!!」
「俺のせいじゃないでしょう?あなたがあの時拒まなか―」
「う、うるさい!断れないのを知ってて!」
あの後、私たちは再び愛し合った。
気付いたら朝で、自分のシフト時間が迫っていた。
「あぁぁ!服に皺が!!」
「俺が直しときますから、とりあえずシャワーが先じゃないですか?」
「…わかった、頼む。」
私は急いでシャワールームに駆け込む。
まさか服のアイロンまでかけさせれるなんて…。
ふと思った。
私はいつも彼に助けられている。
無茶な命令も、彼は完璧にこなしていく。
「…アーノルド・ノイマンだから、か…。」
「できましたよ!」
シャワールームから出ると、笑顔で軍服を突き出すアーノルド。
その人懐っこい笑顔が好きだ、そう思った。
「ありがとう…。アーノルド」
「はい?」
「…愛してる。」
そう呟いて、優しく抱きしめた。
アーノルドの身体が少し強張った。
「…そんな格好で、誘ってるんですか?」
「…あ、やだっ!!!」
自分の格好を見てみる。
バスタオル一枚だった!
「馬鹿っ!茶化すな!」
「ははは、冗談です。…俺も、愛してます。」
そっと抱き寄せられ、遅めのモーニング・キスを交わした。
「あなたがそんなこと言うから、また抱きたくなったじゃないですか。」
「っっ!もう!」
「…あ、時間…」
「はっ!」
自分の置かれている状況を思い出す。交代時間まで…
「あと20分ですね。」
「あぁぁ!化粧もしてないのに!!」
私が鏡の前に立つと、アーノルドはニコニコしながら横に立つ。
「化粧はしっかりしてってくださいね?」
「?どうして?」
「素顔じゃますます男の目を引きますから。」
「…!!馬鹿!」
アーノルドの笑顔が大好きだから、またキスをした。
「いってらっしゃい、バジルール中尉」
「お前も、あと2時間後だからな。寝過ごすなよ。」
また、いつもの過酷な日々が始まる。
でも、もう今までとは違う。
今は、私と時間を共にしてくれる人がいるから…。
ノイマン少尉に見送られながら、私はブリッジに向かった。
END
あとがき
やっちゃったよ…。情事後(笑)
最初ノイマン視点だったんですけど、3行くらい打って、
「そういやこれ系、リョウキンはリョウ(男)視点でやったよな」
と思い、今度はナタル(女)視点にしてみました。
勝手なイメージですが、ノイマンはムッツリじゃないかと思います。なんか超溜め込んでそうだし。…まぁ、彼も男ですからね。
なんかもしイメージとか崩したらすいませんです。
☆おまけ☆
「ナ・タ・ル!」
「!!!???か、艦長!!」
振り返ったら、ラミアス艦長がいた。…しまった…!
「いつのまに少尉のお部屋に住み着いてたなんて…。お泊りをするならナタルの部屋の方がいいんじゃ…」
「艦長!」
つい腹の底から声を出してしまった。
「な、なぁに?」
「ひ、秘密ですからね?!特にフラガ少佐の耳に入ってしまったら、ノイマンが…」
「あら?私はムウから、2人は怪しい!って言われたんだけど?」
…バレてたのか…。
…なんだ、この終わり方…。