20.独占欲





彼はとても優しい。

彼を好きになったのは、優しく私を包んでくれるから。

優しい彼がスキ。

 

それでも…今の私は…

今の私は、そんな彼が…

 

 

 

今日は私の勤務が終了したら、彼と過ごす約束をしていた。

その間、だいたい食堂で雑談をしている彼。

こっそり覗くと、楽しそうに笑う彼がいる。

そんな彼を見ると、自分でもわからない何かが、沸々と湧いてくる。

 

「ノイマン少尉って優しいよね〜。」

「ホント、いつも忙しいのに、何を聞いても笑顔で教えてくれるしね。」

 

そんな噂もポツポツ聞くようになった。

 

そう、私だけじゃない。

彼が優しいのは…私にだけじゃない。

 

笑顔で仲間と雑談している彼をしばらく見つめ、私は黙って部屋に向かった。

 

 

部屋で帽子を脱いでいると、すぐにノックの音。彼が来たのだ。

 

「中尉、入りますよ」

 

私の返事がある前に当たり前のように入室する彼に、わけのわからないイライラがこみ上げる。

 

「返事を聞いてから入れ。」

 

入ってきたノイマンが、背中から私を抱きしめた。

いつもならこの行為が私を落ち着かせるのに、今日は違った。

 

「ノイマン、聞こえたなら返事をしろ。」

「…嫌だ。」

「?!な…」

「今日は機嫌悪いんだ。生理前だっけ?」

 

いつものノイマンと、何か違うような気がした。

 

「ねぇ…さっきも、凄い顔で食堂通り過ぎたよね。」

 

見られていたのか、今日のノイマンは…本当に何かが違う。

 

「ちょっとノイマン、離し…ん!!」

 

後ろから首を無理矢理捻られ、唇を奪われる。そしてそのまま、ゆっくりと襟元を緩められる。

こんな強引な彼を…私は知らない。

 

「何を…」

「何って、別に?」

 

わけのわからないまま呆然としていると、体がゆっくりとベッドに沈んでいった。

 

「ノイマン、やめて…」

「ねぇナタル…俺のこと、好き?」

 

身に着けていた衣類が次々と剥がされていく。あらわになる素肌に彼の視線が絡んで、恥ずかしさに支配させる。

肌なんて、もう何度も見せている。何度も愛し合っている。

なのに…どうして今日はこんなに恥ずかしいのか…

 

「す、好き…だけど…」

「…だけど?」

「……」

「好きだけど、なんだよ。嫌いなの?」

「嫌いじゃ…ない。」

 

こうしている間も、彼の手は私をどんどん裸にしていく。

そう、体だけでなく、心まで…

 

「嫌いじゃないんだ…でも、今日ナタルは怒ってたね。どうして?」

「…怒ってなんか…」

「ない、って言いたい?そんなわけない。今日のナタルは…そうだな…」

 

そう言いながら、ゆっくりと耳元に顔を寄せ、囁く。

 

「自分の物を他の誰かに獲られて、怒ってる顔。」

 

耳たぶに、頬に、唇に…彼の唇の感触を覚える。

唇の隙間から侵入する舌が、私のすべてを絡みとっていく。

自然と息が上がり、すっかり彼のペースだ。

 

「ん…」

「ナタルは、俺が他の誰かと話してるだけで怒るんだね…」

「違う…違うの…」

 

否定する声が弱々しくて…本当に彼に届いているのか不安になる。

私は…私が言いたいのは…そうじゃなくて…

 

「何が違うの?」

「……」

「自分でも気づいてないのかな?」

 

裸の私を包み込む腕は、その言葉と違って優しい。

 

「知ってた。私は…」

「うん、言ってごらん?」

「あなたが他の人に向ける笑顔が…私に向けるものと、違うような気がして…」

「うん。」

「イライラして…」

 

零れていく思い。不安だったのだと、彼に伝えたかった…。

 

「自分だけのものにしたかったんだ?」

 

彼の言うとおりなんだ。

黙って頷く私の目尻に、そっとキスを落とす。

 

「笑ってる俺でいいの?」

「え?」

「ねぇ、笑顔なんて、どこでも振りまけるものが欲しいの?」

 

彼の言っていることがよくわからなかった。

 

「だって…そこらへんで笑うことはいつでもできるよ。人に優しくなんて…俺は義理でもできる。でも…」

 

目尻から首筋に移動する。わざと派手な音を立てて、首筋が吸われた。

くっきりと跡が残るように、強く、強く。

 

「こうやって、自分の印を付けることは…君にしかできない。」

 

首筋の跡をそっと指先でなぞりながら、真っ直ぐに見つめる瞳に、心ごと射抜かれる。

ふっと笑う彼の表情は、絶対に外では見せない、少し意地悪な笑顔。

 

「俺はナタルの笑顔はいらない。欲しいのは…ナタル自身。体も、心も。俺だけのナタルが欲しい。」

 

そう言いながら、再び首筋に落ちる。少しずつ移動しながら、何ヶ所も跡を付けていく。

すごくくすぐったくて、少し痛い。

でも、心地いい痛み。

刻まれる、私は彼のものだという、所有の証。

 

「ナタルも、付ければいいだろ?獲られたくないなら…自分のものって印を。」

 

そういいながら顔の位置がどんどん下がり、胸元を愛撫される。

 

「ん…の、ノイマン…」

「何?」

 

顔が離れても、手はしっかりと胸を離さない。

 

「そ、そのままだと…できない。」

「何を?」

 

くすくす笑いながら言う。わかってるくせに…意地悪な彼がいる。

 

「し、印…付けるの…」

 

私の言葉に満足したように、腕を引き体を起こす。

 

「いいよ、好きなところに付けて。」

 

さっさと上着を脱いでわざとらしく両腕を広げてみせるノイマン。

どうにでもなれ、と、サッと抱きつき、自分と同じ場所に付けてやった。

 

「1つでいい?どこでもかまわないよ。俺はいっぱい付けさせてもらうからね。」

「あんまり付けると…」

「軍服なんてほとんど露出しないんだからいいじゃん。」

「…シャワーの時とか…」

「ナタルは士官用シャワー、ほぼ1人で使ってるだろ?俺はいいよ、見せびらかすから。」

 

わざと私をからかうように笑って言う。悔しいが、彼には勝てない。いつも。

 

「俺はね、独占欲が強いんだよ。…ナタルも相当みたいだけど。」

 

そうだ。彼の言うとおり…独占したい。彼は私のもの。そして、私は、彼のもの…。

 

「そのとおりだ…。だから、誰にも渡さない。」

 

最後に一言、はっきり言えた。

その時ノイマンが見せたのは、私だけの、極上の笑顔だった。

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

あぁぁ、なんだかもっと意地悪でガンガン攻めてく予定だったのに、全然駄目でした。すいません。

情事の前の段階なのですが、今回は自然に書けました。いつもこういう描写はちょっと恥ずかしくなるんですが。

どっちも独占欲は強そうですよね。特にノイマン。でもそんな2人だから好きです。ナタルが大好きなノイマン大好き。

敬語攻めにしようか悩んだんですが、敬語だと段々詰まるんですよ。それに、お題のノイマンは馴れ馴れしい奴で統一するつもりなので。

いつか敬語攻めなノイマンが書きたいです。というか、攻めノイ頑張って練習します。いっぱい書いて、自分の満足する攻めノイ作り上げたい!!

ナタルはいつでも可愛くあって欲しいです!

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system