5.癖





地球に降下し、砂漠の虎を相手に戦った今日。

勝利に酔う戦士たちが、杯を交わし、共に喜びを分かち合っていた。

成り行きで協力し合うこととなった砂漠のレジスタンス達から、戦艦にはないアルコールを分けてもらい、それぞれ好き勝手に飲んでいた。

アークエンジェルの若き士官たちも、レジスタンスのリーダー集団と祝杯を挙げていた。

 

しかし、全員が酒に酔うわけにはいかない。

運悪く艦に残り、平和な夜を任務という形で過ごさなくてはならないクルーもいるのである。

 

そんな運の悪いクルーが1人、艦橋から宴の様子を見つめていた。

 

(楽しそうだな…。しかし、あんなに飲んで…明日艦橋で吐いたらぶん殴ってやる…)

 

自分の同僚たちがレジスタンスと肩を組んで歌っている様子を見ていたのは、艦唯一の操舵手である、アーノルド・ノイマンであった。

彼はその立場から、迂闊に艦から離れられない。ましてやアルコールなど入れてしまったら、何かあった時にクルーの安全は保障できない。

仕方がない、それに、このところまったく休めなかった体が欲しているのは、何より休息である。

これも上官たちのささやかな配慮かもしれない。

それに、下手をしたら士官の自分が飲む場所は、上官のところだ。

どうせ飲むなら上官のお酌をするよりも、同僚とどんちゃん騒ぎした方が気が楽である。

 

(今日はもうすぐ上がりだしな…どうせ飲めないし、様子も見に行かないでさっさと寝るか…)

 

ふと時計に目をやると、あと10分であがりであった。その瞬間、扉が開く。

 

「ノイマン少尉、交代です!」

 

入ってきたクルーに引継ぎをし、艦橋を後にしようとしたその時・・・

 

「ノイマンはまだブリッジか?!」

 

いきなり開いた扉の向こうには、今頃いい気分になっているはずの、ムウであった。

 

「フラガ少佐?!どうしました?」

 

目を丸くして目の前の上官を見ると、ムウは安心したように大きく息を吐く。

そして、すぐに前に向きなおし、ノイマンの手を掴んだ。

 

「助けてくれ!!」

「は?」

 

突然そんなことを言われて戸惑うノイマン。そんな彼をよそに、ムウは思い切りその腕を引っ張った。

 

「とにかく来てくれ!俺はもう嫌だ〜!!」

(…なんだ、酔ってるのか…??)

 

そう思いながらも、何かが起きているのであろうと考え、大人しくついていくことにした。

 

 

 

「あ〜!!来た来たぁ〜!!ちょっとどこいってたのよぅ〜!!」

 

連れて行かれたのは、レジスタンスのアジトの1番奥、いわばトップの人物たちが集まる場所…。

ムウもここで飲んでいたのだろう、トップの集会場も立派な宴会場に成り果てていた。

しかしノイマンが驚いたのは、宴会場になっていたからではない。

そこにいる人物たちの、変わり果てた姿を目撃してしまったからである…。

 

「な、しょ、少佐…」

「だ〜から言っただろ?俺1人じゃ無理だって!」

「大事なことは何も聞いてませんよ!!」

 

せっかくの休息を、まさかこの上官たちの世話で潰してしまうことになるのか…

ノイマンはムウの腕から逃れる術を探していた、その時…

 

「艦長〜、もうらめれすぅ〜」

 

あの、聞きなれた声がした。

いや、正確には…聞きなれているはずの声、である。

いつも凛としているあの声が…いまや呂律の回っていない、なんとも締まりのない声になって響いていた。

 

「や〜ん、もっと飲んでよ〜!上官からの杯は断っちゃ駄目でしょ〜?」

「ん〜……んぐ、んぐ…」

 

完全なる酔っ払い集団…。レジスタンスのリーダーのサイーブも、「いい飲みっぷりだな、ネエちゃん!」などとはやし立てている。

その横には、未成年なのに酔っ払って床で大いびきをかくカガリ、そのカガリを見守りながら黙々と飲むキサカの姿。

誰1人として暴走した女士官を止めようとはしなかった。

 

「うにゃ、かんちょお…」

 

クルーの誰もが一度は拝んでみたいだろう、あの鉄壁の副艦長と言われるナタルが、ありえない醜態を晒している…。

もともとアルコールが苦手なナタルは、断れず勧められるまま酒を飲み続けていた。

そしてすっかり出来上がり、仕舞いにはマリューにがっしりと抱きついていた。

 

「きいてくだしゃいよぅ…」

「ん〜?なんだなんだ?お姉さんに全部話してごらんなさい??」

 

ナタルはマリューの胸で何かボソボソしゃべっている。マリューも「うん、うん。」と相槌を返すだけ。

ノイマンはすっかり固まってしまった。何がどうなっているのか、よくわからなかった…。

 

「副長〜!そこは俺の席だっていっただろ?!」

 

ノイマンが逃げないよう、引き続き腕を離さないムウ。マリューの胸を独占しているナタルに抗議をする。

 

「そ〜ねぇ〜、あ、ほらナタル、王子様が迎えに来てるわよ〜!」

 

そういいながら、マリューはナタルの肩を叩き、扉の方を指差した。

 

「うにゃ…お〜じしゃま…」

「……?」

「ノイマン少尉?なんでそこに突っ立ってんのよ、早く来なさいよ。」

 

その口ぶりと鋭い視線は、素面の時と全く変わっていなかった。そう、この人は多分まだ素面なのだ…。

 

「は、はい…」

 

圧倒されるままにマリュー、正確には酔っ払ったナタルのそばへ行く。

すると、次の瞬間…ノイマンは尻餅をついた。

 

「いっっっ!!」

「お〜じしゃま…」

 

尻餅をついたのは…今まさに腕の中にいる、ナタルのせいであった。

マリューの胸から離れたと思ったら、今度はノイマンの胸に飛びついていたのである。

慌てふためくノイマンを笑いながら見ているマリューとサイーブ。ムウの笑いは苦笑いだ。

 

「あはははは、ナタルはねぇ、抱きつき癖があるのよ!」

「そのまま持ち帰っちまいな、王子様よ!!」

 

それぞれのトップが大爆笑でノイマンを追い払う仕草を見てみせた。

突然連れてこられて、この扱い…。いくら出来た人間とはいえ、いい気分ではなかった。

ムウはバツが悪そうに、ノイマンに手を合わせている。

仕方なく、自分にしがみつく上官を抱え、この場を去ることにした。

 

「と、言ってもなぁ…あの宴会場を通って艦に戻るのもなぁ…」

 

仕方なく裏から回って艦に戻ることにした。その間、ナタルはもぞもぞと動きながらも黙って大人しくノイマンにしがみついていた。

 

(…まぁ、いっか。役得役得。)

 

とろんとした目がいつもの迫力を70%カットしていた。ノイマンが顔を覗くと、真っ赤な顔をこちらへ向けてくる。

ナタルの部屋まで移動し、慣れた手つきでパスワードを入力し、中へと入る。

ゆっくりとベッドに下ろし、電気を付るためベッドを離れようとした、その時だった。

 

「うわ!!!」

「いっちゃだめ。」

 

背を向けて離れようとするノイマンの背中を引っ張ってベッドへと引き込むと、ノイマンは背中から倒れこんだ。

倒れてきたノイマンの顔を覗き込むように見るナタル。その表情は、さっきまでの酔っ払いナタルとは、少し違う。

 

「ここにいるの。」

 

どこか甘ったるい声と潤んだ瞳の破壊力といったら…。

 

「…わかったから、一回どいてくれる?」

「やだ。」

「なんで…」

「行っちゃうからやだ。」

 

ナタルはノイマンにしがみつく腕の力をさらに強めた。その力がなんだか愛しくなって、ノイマンは優しくナタルを抱き寄せた。

 

「行かないよ。俺はちゃんと、ここにいる。」

「…うん。」

 

ナタルはそのまま、静かな寝息を立て始めた。

 

「ナタル?…やれやれ。」

 

しっかりと握られた袖を優しく解き、電気を消しに一旦そばを離れる。

枕もとの小さな明かりを頼りに再びベッドに行くと、幸せそうな彼女の寝顔がライトに照らされていた。

 

「まったく、こんな凄い癖があったとはね・・・。まぁ、たまにはいいか。」

 

ノイマンはそっと髪を撫で、額にキスを落とした。

 

「おやすみ、困ったお姫様。」

 

そっと隣に忍び込んで、今度は自分からその手を強く握り締めた。

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

久しぶりの更新です!!

これは昨年8月頃途中まで書いていたお話で、酔っ払いを部屋に連れていくところで止まってました(^^;;)もうちょっとでした。

さて、今回は「癖」ということでしたが……「癖」というか「酒癖」です、はい。

「砂漠で宴会ネタ」はナタルファンならば使ってみたくなるネタだと思うんですがどうでしょう?!

だって、一口でむせるなんて本編でわざわざ描かれた一瞬の、なんともオイシイ情報じゃないですか!!

だからなんとか酔っ払いナタルの醜態を書きたくてしょうがなかったのです!!

うちのナタルは「抱きつき癖」でしたが、この「酒癖」って、書き手によって色々な癖が見られて面白いですよね!

最初、このネタは普通にAA日常で書くか、ノイナタで書くか悩んだのですが…

どうしても「王子様」とか使いたかったので、こんなんになりました。

せっかく「癖」というテーマなら、もっと別の「癖」で書いてもよかったかな??ネタないけど。

でも最後はカップルでいちゃいちゃさせられたので、OKということで!!

 

 

 

 

 

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