今日は特別





「今日の副長はやたら足が速い。」

 

今日彼女を目撃したクルー達の、共通の意見だった。

 

背筋を伸ばし、きびきびと歩いているのはいつものことだが、スピードは二倍速。

すれ違うクルー達も、敬礼をする隙もない。

 

「なんかすごい速さよねー。」

「確かにいつも速めだけど、今日は違うよな。」

 

CICで待機中のミリアリアとサイがこそこそとしゃべっていると、交替で休憩に出ようとしたトノムラと、背後に座っているチャンドラがクスクス笑っていた。

 

「まぁ、今日はアレだからね。」

 

チャンドラの言葉に、子供達の頭は?で埋まる。

 

「お二人は知ってるんですか?」

「まあね。俺達だけじゃなくて、ブリッジ勤務の人間はみんな知ってるよ。」

「一言で言えば、まぁ中尉も女だってことさ。」

 

トノムラの台詞に吹き出すチャンドラ。

 

「えー?何があったんですか?」

 

サイが興味深気にの身をり出す。

 

「あったんじゃない。これからだよ、こ・れ・か・ら!」

 

次の瞬間、4人は素早く持ち場に戻り背筋を正す。

 

物凄いスピードで足音が近付いてきたからである。

 

「トノムラ?休憩だろう、早く休め!」

 

いきなり現れた、話の種であるナタル。トノムラはそそくさとCICを後にした。

 

「私も休みに入る。お前達、気を抜くなよ?」

「了解。」

 

なんとなくいつもの倍威圧感を放つナタルにびびる子供達の代わりに、代表でチャンドラが言葉を返す。

その言葉に慌てて子供達も敬礼を返した。

 

 

「お疲れ様です、ノイマンさん!」

 

トノムラが食堂に顔を出すと、先に休憩していたノイマンが食事を摂っていた。

 

「お疲れ。お前も休憩か?」

「はい……へへへ…」

 

ノイマンの隣に座り込むと、ニヤニヤしながら彼を見るトノムラ。

そんな彼をノイマンは睨むように見返す。

 

「……気持ち悪い笑いだな…何だよ…」

「いやぁ、待ち遠しかったでしょ、休憩。」

「休憩ならいつも待ち遠しいが?」

「今日はいつもに増して…ですよ。」

「…いや、いつも待ち遠しいのは本当だ。今日が特別なんてことはない。」

 

トノムラの質問をさらりと返すノイマン。

 

「そうかぁ…もしかして今日、1回も姿見てませんか?」

「あぁ、まあな。ま、こんな状況で特別なことはないだろう、な。」

 

涼しい顔をして食事を続けるノイマンに、トノムラは溜め息を吐く。

 

(あの様子じゃ、特別なことがありそうだけど…)

「まぁいいや。あ、遅くなりましたけど、おめでとうございます〜。」

「あぁ、ありがとな。」

 

喉まで出かかった言葉を飲み込み、トノムラも食事にすることにした。

トノムラが席に着こうとした時、入り口にはナタルが立っていた。

 

「…あ、ご苦労様です、中尉」

「あぁ、ご苦労、トノム…」

 

言いかけて、さっと顔を赤くするナタル。

 

「あ、中尉、ご苦労さ…」

 

ノイマンが振り返ってあいさつすると、ナタルの姿はなくなっていた。

 

「…あれ?……」

「どっか行っちゃいましたよ?」

「………」

「恥ずかしいんじゃないですかね?」

「彼女が俺を無視したことなんてない……」

「…ほ、ほら、こういうこと、慣れてないんじゃ?」

「無視したことなんてなかったのに………」

「……期待と不安、何対何です?」

「4対6」

「頑張ってください。」

 

トノムラがうなだれるノイマンの肩をポンポン叩くと、ノイマンは立ち上がり、

そのまま食堂をあとにした。

 

 

(あの態度はなんだ?何か特別な祝いをしてくれるのだろうか?)

 

トノムラだけでなく、誰もが思うだろうか、心配しすぎだと。

でも、あの態度にはショックを隠せない。

ノイマンは部屋に入り、ベッドにダイブして拗ねた。

 

(俺の予定ではナタルが顔をあわせてすぐに「おめでとう」って言ってくれて…部屋に入って、「アーニィ」って言いながら抱きついてきて…それでそれで)

 

都合のいい(と言うかありえない)妄想を巡らせていると、いつのまにかうとうとしていた。

 

(……寝よう…)

 

ノイマンはそのまま布団をかぶり、すやすやと寝息をたてた。

 

 

(……ん、なんか、いい匂いがする……甘い)

 

ゆっくりと目を覚まし、いつもと違う部屋の雰囲気を感じ取ったノイマンは勢い良く起き上がった。

 

「…へ?…あれ?」

 

目の前には、冷めた様子の紅茶と、ベリータルトとチョコレートケーキが1つずつ。

そして、膝を抱え頬を膨らませた、ナタルの姿…

 

「!!な、ナタル!?」

 

ノイマンはベッドから下り、ナタルの横に行く。

 

「…待っててくれてると思ったのに…」

 

ナタルは拗ねた表情のままそっぽを向いた。

 

「え?あ、あの、ずっとここに?」

 

ノイマンの声に答えないナタル。

 

「な、ナタル…おーい、ナタル?」

「おめでとう、アーノルド。」

 

ノイマンがナタルの肩に手を置いた瞬間、ナタルは顔を上げて恥ずかしそうに呟いた。

ノイマンは真っ赤になって思わず抱き締める。

 

「ありがとう!」

「///く、苦しい。」

 

力が入りすぎた様で、慌てて腕の力を抜き、ナタルを見つめた。

 

「でもこのケーキ、どこで調達したんだ?」

「内緒で食堂の連中に作らせた。で、それを取りに行ったらお前がいたから、その…恥ずかしくて。」

 

あの時逃げたのは恥ずかしさからだったのか…

ノイマンはますます嬉しくなった。さっきまでふて寝するくらい落ち込んでいたのに。

 

「ブーツ履いたまま寝るほど疲れてたのか?」

「(ブーツ履いたまま寝るほど落ち込んでんだけど)いや、まぁね。でもごめん。あ、紅茶入れ直さないとね。」

 

ノイマンがカップを取ろうとすると、ナタルが制する。

 

「主役がやってどうする。今日は私が世話を焼くんだ!」

「でも…」

「今日は、特別。」

 

ナタルの一言で、ノイマンは死んでもいいと思った。

 

「じゃあお願い。」

 

ナタルは微笑を返し、新しいお茶を注いだ。

 

「美味しそうだね!…そうだ、今日は特別なんだよね?」

 

ノイマンは言うなり口を開けてナタルを見つめる。

ナタルは最初は首を傾げたが、ノイマンの考えていることがわかると、一瞬で真っ赤になった。

 

「…あ、あーん…」

「あーん……ん、美味しい!!」

 

ノイマンの笑顔が嬉しくて、ナタルも笑った。

 

「…また、こうして特別な日を迎えようね。」

「あぁ…次は、私の誕生日だな。」

「もちろん、クリスマスは別にちゃんとやるからね。」

 

また2人でお祝いをしよう。

 

その時には…世界が平和でありますように……

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

軽く2週間遅れたバースディ作品です。申し訳ありませんでしたm(__)m

改めまして、ノイマンおめでとう!

1回消えたのを書きなおしたら、オチとか変わっちゃいました。まぁいいや。

もっとすっきりまとめられるようになりたいものです。。。

ノイマン微妙にヘタレですね。格好いいノイが書きたいなぁー!

次はそれ目標に頑張ります!

 

 

 

おまけ

 

「あ、おはようございまぁす。」

「おはようトノムラ!今日も頑張ろうな

……は、はい……

(あ、お祝いしてもらえたんだなぁ)

 

 

ノイノイ、単純?

 

 

 

 

 

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