守るから





地球に降下して数日。

 

いつくるかわからない『砂漠の虎』からの襲撃に備え、アークエンジェルは夜になっても明るい。

久しぶりに休憩に入った俺は、少し風にあたろうと甲板にむかった。

 

 

「……中尉…?」

 

思わぬ先客に足を止める。

そこにいたのは、ナタル・バジルール中尉。

月明かりに照らされた彼女は、息を呑むほど美しい。綺麗過ぎて、近寄るのを躊躇った。

 

「ノイマンか。………お前も、風にあたりにきたのか?」

 

彼女はゆっくりと振り返り、うっすらと微笑む。

………その顔に力はなかった。

 

「はい。ずっと缶詰でしたから、少しあたりたくて。」

 

彼女も疲れているはずだ。今日は外に出ていたし、色々あった。

邪魔してしまったかもしれない。

 

「月が綺麗だ。地球から月を見るなど久しぶりだから、つい見惚れてしまっていた。」

 

そう言って、また空に視線を戻す。

どうやら邪魔ではないらしい。

自分も月光浴を堪能しようと、ゆっくりと彼女の横に並んだ。

 

手を伸ばせば届く距離に………

 

ちらりと横目で彼女を見る。

近くで見る彼女はやはり綺麗だ。でも、少しおかしい。

 

「……中尉、具合でも悪いのですか?顔色がよくありません。」

 

月に照らされよく見える彼女の顔は、少し青い。

ここ最近休んでないのは俺だけじゃない。彼女もそうとう無理していただろう。

 

「月明かりの下だからな……」

 

そう言って少し顔を背ける。

 

………違う。

 

これは月明かりのせいなんかじゃない。

 

どうして。

どうしてそうやって隠す?

いつもいつも………

 

こんなに……傍にいるのに……

 

 

「お疲れなんでしょう?今日はもう休んでください。」

 

しかし彼女は頑なに首を振るばかり。

 

「大丈夫だ。君こそ疲れているだろう?」

 

その時、彼女は少し震えた。

砂漠の夜は冷える。

昼間との気温差がかなり激しい。

中尉は自分と違って外にいたから、よくわかるはずだ。

いったいいつからここにいるのか。

震える身体が物語る。

 

彼女はもう、ずっとここにいたのだ…。

 

「風邪を引きます。もう戻りましょう。」

 

しかし、それでも首を振る。

 

「もう少し…」

「いけません。このままいたら冷えてしまいます。さぁ…」

 

そっと手を差し伸べる。

 

「……―――てくれ。」

「は?」

「ほっといてくれ。」

 

静かに、そしてはっきりと言った。

 

拒絶された手が宙を彷徨う。

胸が、締め付けられた。

 

「…ほっておけません。何かあってからでは遅いですから。」

 

強引に手首を掴む。

そして感じた。

 

冷え切った手…

以前より細くなった手首…

 

 

「放せ、ノイマンッ!!」

「どうして!!」

 

彼女の言葉ではなく…別の何かに反応して声を荒げてしまった。

 

「トノムラから聞きました。今日の昼食をまともに頂いてないと。夕食も、最近残しているそうですね?」

「…放せ。」

「体調管理として食事は怠ってはいけないと、日頃から言っているのはあなたでしょう?」

「部下に説教などされたくない。」

 

違う…。そうじゃない…。

 

「食事が喉を通らない程何かに追い詰められているのなら、なぜ話してくださらないのですか?!」

 

どうして頼ってくれない?

自分は…頼れるに値しない?

誰よりも、傍にいるのに…

 

「お前は人の心配より、自分の心配をしろ。」

「…自分よりもあなたの方が、心配になってしまう程やつれています。」

 

俺の言葉に、信じられないといった目で俺を見つめる。

そうだ。普通上官にここまで言う部下などいないだろう。

 

でも…

 

その時、俺はいつのまにか彼女の身体を抱きしめていた。

 

「!!の、ノイ…」

「俺では…あなたの役に立てませんか?あなたの負担を…少しでも軽くすることは…できませんか?」

 

冷たく華奢な身体は震えていて…

段々と力を失っていく…

 

「ノイマン…」

「一人で悩んでほしくないんです…なんでも、俺に言ってほしいんです。あなたのためにできることが…欲しいんです。」

 

今まで言うことを躊躇っていた言葉が、どんどん零れていく。

そう、伝えたい…伝えなければいけない。

 

「あなたを…愛しているんです…」

 

ずっと秘めていた思い。

そう、本当は、ずっとこうしたかった。

こうやって抱きしめて…そして知ってほしかった。俺の思いを…。

 

「ノイマン」

「頼ってください…もっと、甘えることを覚えてください…」

 

抱きしめる力が強くなる。

 

「俺じゃなくてもいい…お願いです。」

 

一人で悩まないで…それだけでも伝わればいい。

相手を選ぶのは彼女だ。俺は、自分であることを願うだけ…。

 

彼女の身体から震えが治まった時、突然現実に戻された気がして、そっと彼女を解放した。

 

「…大変失礼しました。」

 

そう言って頭を下げ、俺は彼女に背を向けた。

 

「ノイマン………」

 

彼女の弱々しい声が耳に届く。

 

「私は…」

 

何かを言おうとしている…。

俺は立ち止まり、静かに振り返る。

 

「私は…君に…君に聞いてほしい。」

 

視線が重なる。

少し潤んだ瞳。

決して誰にも見せないであろう、弱々しい姿。

 

「中尉…」

「だが、私ばかりお前に頼るのは…嫌だ。」

 

滲んだ涙をそっと指で拭い、いつもの、真っ直ぐな瞳で俺を見る。

 

「お前も私に頼れ。」

 

冷たい風が、通り抜けた。

一度離した距離を縮めるように、お互いに一歩一歩近づいていく。

 

「…では、場所を移動しましょう。まずはあなたの話から、ゆっくり聞かせていただきます。」

 

再び手を差し出す。

 

「でも、まずはその冷えた身体を、温めさせてください。」

 

今度はちゃんと手を取ってくれた。

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

今回は、「シリアスで、かっこいいノイマン」を目指しました。

…かっこいいのかわかんないんですが、いつものヘタレノイマンよりはかっこよくなったと思います。

ナタルが何に悩んでいたのか、そしてノイマンはどうやって冷えた身体を温めたのかは、御想像にお任せします!

まぁきっと男らしく温めたんだと思います!!私の脳内では☆

本当はナタルサイドでの話も書きたいんですが…

今はギャグやのほほんな話が書きたいです。

重い?話は書いててつらくなるので…

 

 

 

☆おまけ☆

 

「もう、寒くないですか?」

「…ん。」

「これからは、毎日でも温めて差し上げますから、遠慮しないでくださいね。」

「ま、毎日///………そ、そそそんなんじゃ身体が保たん!!」

「俺は構いませんが…。」

「調子に乗るな、馬鹿者!!」

 

―――ばしっっ!!!―――

 

「っっっ!!!しゃ…洒落になってません…」

「知らん!!」

 

 

急所を狙ったらしいです。なーたん照れ屋さん☆

…って、これじゃあどうやって温めたかバレバレ…?!

 

 

 

 

 

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