好きになった。
きっと街には雪が降っていて、派手なイルミネーションが施されているだろう。
小さな子供は大きなプレゼントを抱え、両親と豪勢な夕食を楽しむ。
恋人達は肩を並べ、夜景を楽しみながら歩く。
でも、自分には関係のないことだった。
もらうプレゼントの包装は、赤と緑。
それはあまりにも「クリスマス」を強調していて…。
せめて誕生日は、
クリスマスと分けてほしいのに。
だから、私はクリスマスが嫌いだった。
「今日1日くらいいいかなって思って、厨房にケーキを頼んでおいたわ!」
艦長があまりにも嬉しそうに言うから、何も言わなかった。
ここは娯楽とは無縁な艦内。
士気を高めるためにも、このくらいはしていいだろう。
「今日は遅番だから、ランチになっちゃうけど…楽しみだなぁ〜」
「艦長は、甘いものはお好きなんですか?」
「えぇ、もちろんよ!ナタルも好きだったわよね?」
「はい、人並みには…」
「あ、いたいた!」
他愛のない会話をしていると、フラガ少佐がひょっこりと現れる。
「メリークリスマス、お2人さん☆」
「あら、少佐…」
フラガ少佐は片腕を後ろにやったまま、ウインクをして近寄ってくる。
その意味を察し、私はこの場を去ることにした。
「…では艦長、私はシフトですので…」
「あら、そうね、じゃあよろしくね。」
「失礼します。」
私が部屋を出ると、案の定少佐は艦長にプレゼントを渡していた。
それは、赤と緑の、クリスマスプレゼントだった…。
シフトを終え、艦橋から食堂へと向かっていると、後ろから足音が聞こえる。
「中尉!」
振り返ると、少し息を切らせたノイマンがやってくる。
今日はシフトが同じだった。
「これから食事ですか?」
「あぁ…そうだが?」
彼はにっこりと微笑み、隣に並んだ。
「ご一緒させてください。」
「あ、あぁ…」
久しぶりに肩を並べて歩く。
ずっとシフトが合わなかった。
たまたまあったのが、今日。
ちょっと嬉しかった。
「そういえば、今日はケーキがあるんですよね。」
「艦長が用意させたんだろう?」
「気に入らないんですか?」
「…いや、ケーキは好きだから…」
「だろうと思った。頬、緩みっぱなしですよ。」
「!!の、ノイマン!!!」
そんなやりとりをしている間に、甘いにおいの広がる食堂に着く。
「中尉、ショートケーキとブッシュ・ド・ノエル、どっちがいいですか?」
「2種類あるのか?」
「えぇ、どうします?」
周りを見渡す。
そこには数名しかいなかったが、全員ブッシュ・ド・ノエルだった。
「…ショートケーキ。」
ノイマンは笑ってショートケーキを運んでくれた。
ゆっくりと話をしながら食事を済ませ、デザートの時間になる。
すると、ノイマンは自分のケーキ皿を私の方へ寄せる。
「これ、食べてください。」
「え!?せ、折角のケーキなのに…」
「お腹いっぱいになっちゃって…。それに、」
そっと声を潜める。
「クリスマスプレゼント、用意し損ねたから。」
彼の一言に、身体が固まる。
クリスマスプレゼント。
そっと彼の顔を見る。
それは、私の大好きな、優しい笑顔で…。
「ありがとう、ノイマン。」
受け取ったケーキの味は、よくわからなかった。
「じゃあ、後で部屋に行きますから…」
食堂を出て、誰もいない廊下でそっと耳打ちする。
「うん。」
彼の背中を見送り、自分の部屋へと戻る。
部屋に入り、軽くシャワーを浴び、ベッドに飛び込む。
なんだか今、ひどい顔をしている。
ノイマンにとって今日は、ただのクリスマスなんだろうか。
別に祝ってもらう年じゃないけど…
バカみたい。
まるで、駄々をこねる子供だ。
いつの間にか眠っていたらしい。
ドアのノック音で顔をあげる。
「中尉、失礼します。」
声と共にドアが開く。
「遅くなりました…ナタルさん?」
ベッドから動かない私を不思議そうに見つめるノイマン。
「具合でも悪いんですか?」
そっと私の隣に座り、心配そうに顔を覗く。
「大丈夫。なんでもない。」
彼の肩にもたれると、そっと抱き寄せてくれた。
「そうだ、これ。」
「ん?」
反対の手が目の前に現れる。
その手の中には、金色のリボン、ピンク色の包み。
「え?」
「プレゼント。」
「だ、だって、さっきケーキを…」
「それはクリスマスプレゼントって言いましたよね?」
それは、赤と緑に包まれたプレゼントじゃなくて。
綺麗な、ピンクと金のプレゼント。
「たいしたもの用意できなかったんですが、どうしても渡したかったんで。」
そっと紐を解く。
中には、小さなバスケットに入った、色とりどりのキャンディ。
「本当に対したものじゃなくて恥ずかしいんですが…」
その中の黄色い粒を摘み、そっと口に運ぶ。
溶けるような甘さ。優しい香り。
まるで、彼自身に包まれたような……
「!?な、ナタルさん!?」
自然と涙が零れ落ちる。
嬉しくて嬉しくて…
大好きな人からの、私だけのプレゼント。
「ナタルさん…」
そっと抱きしめてくれるその身体はとても熱くて、
口の中のキャンディと共に溶けてしまいそうだった。
「誕生日おめでとう、ナタル…」
「ノイマン…。」
私の名前を呼ぶその声も、
私を包むその身体も、
私を思うその心も、
「大好き。」
誰よりも大好きな人と過ごす、今日という特別な日。
大人になった私に贈られた、クリスマスプレゼント。
私は初めて、クリスマスイブに生まれてよかったと思った。
END
あとがき
やっと編集終わりました!
改めまして、ナタルお誕生日おめでとう!!
なんだか久しぶりすぎて、超グダグダな話になってしまいましたm(_ _)m
ノイマンマメですね!!まあ当然なんでしょうが…。
なんだか、ノイマン誕生日の時とギャップがありますが、なんとなく、書いている時の心境に影響されます。
バカップルな2人が書きたいのに書けない…。頑張らなきゃ…。
☆おまけ☆
「あ、ショートケーキ、いかがでした?」
「ん?あぁ、美味しかった。ショートケーキ大好きなんだ。」
「よかった。やっぱり少佐には敵わないや。」
「???なんのことだ?」
「あれ、実は1つしかない、バースディケーキだったんだ。」
「え!?」
「少佐が、絶対ショートケーキにしろって言うし。艦長も今日のためにシフト合わせてくれてさ。」
「…ずいぶん色んな人にプレゼントをもらったんだな、私…」
用意周到。ここでもムウマリュがでしゃばる!!