伝えたい気持ち
「バレンタインは女が好きな男にチョコレートを贈るんだぞ。」
カガリのこの一言で始まった、女性隊員たちのチョコレート作り。
2月14日、聖バレンタインデー。
バレンタインの意味など国ごとに違うのだが、どうやらここではオーブの風習、
「女性が男性にチョコレートを贈る」
が話題になったようだ。
「というわけで、順番に調理場を借りようと思うのよ、で、これが『調理場使用シフト』ね!」
マリューは艦橋勤務の女性・・・つまりはナタルとミリアリアに紙を渡した。
「あ、私、バジルール中尉と一緒ですよ。」
「…艦長、お言葉ですが私は渡す相手がいな」
「特別な相手以外に贈るのを『義理チョコ』というらしいわよ。普段頑張ってる部下にあげるのも上官の務めじゃないかしら?」
ナタルの言い分を逆らえないように上手くかわし、ニヤニヤと笑うマリュー。ナタルは困った顔で溜息を吐いた。
隣にいたミリアリアはそんなナタルを笑顔で見上げる。
「せっかくですから、CICの3人に作りましょう。きっと喜びますよ。」
ナタルはミリアリアの純粋な意見で完全に折れたらしく、紙を見つめたまましばらくなにかを考えているようだった。
2月13日、バレンタイン前日。
ナタルとミリアリアはそれぞれ配布されたエプロンを身に付け、並べられた器具を一つ一つ確認した。
「さて、中尉は何を作るんですか?」
「いや…普通にチョコを型抜きして、大量に作って適当に渡そうかと…」
腕をまくり、やる気満々なミリアリアとは対照的に、ナタルはてきぱきと作業を進めようとする。
ミリアリアはつまらなさそうな顔でナタルを睨んでみた。
「えー!!本命もそんなんでいいんですかぁ?!」
年頃のミリアリアにとっては実につまらなかった。どうにかこのお堅い上官に素直になってもらいたいのだ。
ナタルは眉間に皺を寄せ、ミリアリアを睨むように見つめ返した。
(…ホントにいないのかな…?)
どうやら彼女の女の勘が、ナタルにだって本命くらいいるはず、と思わせていたようだ。
しかし本当のところはしらなかった。
睨まれたので、とりあえず空気を変えようとミリアリアが動いた…その時だった。
ナタルの顔がみるみる赤みを帯びてきたのだ。人が照れているときのそれだった。
ミリアリアは動くのをやめ、にっこりと笑った。
「じゃ、何作るか一緒に考えましょうか☆」
近くにあった料理本を手に取ると、ナタルの前に広げて見せた。
どのページを開いても、チョコ、チョコ、チョコ…
シンプルな型抜きのものから、色とりどりのトッピング、さらには凝ったラッピング方法まで載っている。
「…べ、別に凝ったものじゃなくてもいいんじゃないか?」
「ダメですよ!!男は、みんなに見せびらかすんです!!本命に、『あれ?自分だけ違う…』って思わせないと!」
彼女の熱弁に押され、少し真剣に本を読み始めるナタル。
なんだか意外な面が見れた…と、ミリアリアは笑いながら本を読んでいた。
「CICメンバーにあげるやつですけど、こんなもんでいいですか?」
「あぁ、もう固まってるな。いいだろう。私のは1人3つずつな。」
「私は2つずつですね…。」
2人はそれぞれ別々に作った義理のチョコレートを、CICメンバー用に小分けしていた。
奥のオーブンからは、甘い香りが広がっていた。
「できたかな…ちょっと見てきますね!」
2人はチョコレートの他に、お互い本命用に何かを焼いていた。
「中尉のも出来てるみたいですよ。焼けてるかチェックしましょう。」
「あぁ…な、なぁ、ハウ…」
「なんですか?」
再びオーブンを覗きに行こうとしたミリアリアを、ナタルは心配そうな顔で止めた。
ミリアリアは声だけを返し、オーブンから取り出した皿を持ってすぐに戻ってきた。
目の前に戻ってきたのを確認し、恥ずかしそうに口を開く。
「ほ、本当によろこんでくれるだろうか?」
突然の戸惑い発言に、ミリアリアは目を見開いてしまった。
しかし、すぐに笑って言った。
「大丈夫です!誰だって嬉しいですよ。それが特別だって知ったら余計に。それに…」
言いながら自分の本命用を味見し、頷いて続ける。
「中尉から貰えるなんて、きっと予想してませんからね!」
「…し、しかし私から貰って嬉しいのだろうか…」
「嬉しいですよ。私は中尉の女性らしい面が見られて満足です!!」
そう言って、ナタルの本命用にも手をつける。
ナタルは黙って彼女の様子を伺った。
「!!美味しい!私のと交換したいです!!」
「だ、ダメだ!!…味見したんだからいいだろう?!」
「ふふ、そうですね!じゃあ、最後に気合入れてラッピングしましょう!!!」
調理場シフト交換の時間が迫っている。2人は本命用ラッピングに取り掛かった。
2月14日、バレンタイン当日。
今年は女が男にチョコを、というわけで、男性クルーたちは朝からそわそわしている。
「ありがとうミリィ!」
食堂では、休憩中のトールが、ミリアリアから派手な包みを受け取っていた。
「お〜、お熱いねぇ。」
戦闘がないと暇人なフラガが茶化していると、後ろから頭を殴られる。
涙目で振り返ると、そこには呆れ顔のマリューが立っていた。
「まったく、なんでじっとしてられないの?探したわよ。」
「おぉ?!ってことはもしかして…」
「はい、これ。」
マリューの言葉に目を輝かせた瞬間、綺麗なラッピングの包みが目の前に突き出される。
受け取るフラガは、実にしまりのない…しかし、幸せがにじみ出た表情だった。
「サンキュ〜!!これで次の戦闘もいけるぜ!!」
「もう、調子いいんだから…」
「トールもそうよねぇ?」
「…だ、だって嬉しいからさ。」
まるで兄弟みたいな男2人を、女2人は笑って見つめた。
その頃艦橋では、CICメンバーが騒いでいた。
「これがハウから、で、こっちが私からだ。」
「わ〜、ありがとうございます!!」
「0かと思ってました!感激っス!!!」
「嘘つけ、お前、朝食堂の子から貰ってただろ?」
サイ、トノムラ、チャンドラは早速チョコをほ頬張る。本来こんなところで食べていいのか、しかし、今日は大目に見てやるようだ。
「上手くできてるか?」
「はい、美味いっす!!」
そんなやり取りが艦橋に響く中、つまらなさそうな顔の男が1人…
「…うるさいな…」
「どうしました、ノイマン少尉?」
上にはノイマン、パル、カズイの3人がいた。
「2人は貰ったのか?」
「あぁ、俺は朝艦長から頂きました。」
「ボクもミリィから貰いましたよ。」
「いや…そうか、そうだよな。」
ノイマンは小さく溜息を吐いた。
(中尉から貰ったのか聞いたんだが…まぁいいか。)
ナタルがCICから上ってくる気配はなかった。むしろ、CICから彼女の声は消えていた。どうやら艦橋から出たらしい。
(…ま、そうだよな…そんなもんだよな……俺、一応直属の部下なんだけどなぁ…)
「はぁ…」
ノイマンの深い溜息は、艦橋にむなしく響いて残った。
数時間後、交代の時間。
幸せそうなトールが、ミリアリアと艦橋に入ってきた。
「交代で〜す!!」
トールの声に笑いながら、ミリアリアはすぐにCICに降りた。
「あ、ハウ〜、チョコありがとう。」
「美味しかったよ、ミリィ。」
「あ、食べてくれました?ありがとうございます!中尉と一生懸命作ったんですよ!」
「うん、中尉のも美味かったな〜!」
その時、ノイマンはちょうどCICの上を通っていた。本日何回目かの溜息を吐きながら…。
艦橋を出ると、遠くから規則正しい足音が聞こえてくる。
交代でやってきたナタルだった。
「交代か、少尉。」
「あ、はい、お疲れ様です。」
ちらりとナタルの手元を見る。
それらしいものはないように見えた。
「では失礼します…」
ノイマンは肩を落とし、また溜息を吐いてその場を立ち去ろうとした…その時…
「いつも、ご苦労だな…」
そう言われた瞬間、背中に何かが押し付けられた。
「え?」
「これからも…よろしく頼むぞ。」
背中に回った手が何かを掴む。掴んだ瞬間、こう一言残したナタルは、逃げるように艦橋に入って行った。
「あ…」
自分の手の中には、大き目の包み。中から甘い香りがした。
「まさか…」
すぐに中身を確認する。そこには、2粒のトリュフと鮮やかなトッピングのハート型のチョコ、おまけにパウンドケーキが入っていた。
「…中尉…」
一気に幸せな気持ちでいっぱいになる。
・・・少し不器用な彼女の気持ちは、ちゃんと彼に届いたようだ。
END
あとがき
無駄に長くなってしまいました。
今回は付き合ってる設定ではなく、両思い設定で書かせていただきました。
バレンタインだからカップルで…とは思ったんですが、こんなのもありかな?と思いまして…
テーマは「初々しい思い」。大人になっても純粋な乙女心を失わない、そんなナタルです。
しかし、ノイマンは相変わらず大人気ないですね…ダメだなぁ、なんか違ったノイマンが書きたい!!
バレンタインに女がチョコを贈るのって、日本と…中国だっけかな、たしかそんなもんなんですよね。
他の国は、性別関係なくプレゼントを贈るらしいですね。いいなぁ。でも、女子高出身の自分もそんな感じです。
さて、今回時間があったので、付き合ってるバージョンもやってみました。
興味がある方は、こちらのリンクからどうぞ!!→
以下はいつものおまけです!!
☆おまけ☆
食堂にて。いつもの下士官たち(トノムラ、チャンドラ、パル)が机を囲んでいる。
「あ、ノイマンさん、チョコ貰いました?」
「あぁ、貰ったぞ。中尉から。」
「美味かったですよね、中尉のトリュフ!!」
「いいなぁ、中尉から貰えなかった。」
「お前はちゃっかり艦長から貰ってただろ?」
(あれ?…みんなトリュフだけ?)
「あ、あはは、ホント美味かったな、トリュフ!!」
「…??どうしたんすか?」
しょうもないおまけですいません…ますます情けない男に…。
今更自分だけいっぱい入ってたことに気付いた男。
わ〜、もしかして俺特別?!みたいな?嬉しいよね、好きな人からの特別は!