けたい思い





3月10日。

 

ノイマンは一人自室でカレンダーとにらめっこしていた。

 

一ヶ月前のバレンタインの日、念願のナタルからの本命(だと信じている)チョコをもらった。

14日はホワイトデー。バレンタインのお返しをする日なのである。

 

「…殺人的シフトに流されっぱなしで忘れていた…あと4日しかないじゃないか…」

 

どんなお返しをするべきなのか。どんなものなら喜んでくれるのか。どうやって他の人と差をつけるのか。彼の悩みは尽きない…。

一人で考えても何も思いつかなかった。

仕方なく疲れた身体を引きずり部屋を出ると、ちょうど休憩に入った仲間たちがいた。

偶然居合わせたのは、トノムラとパルの2人だった。

 

「あれ、ノイマン少尉、どうしました?」

「顔色悪いっすよ?」

 

ちょっと猫背気味に(ぐったりしている)部屋の扉の前に立っているノイマンを不思議に思ったトノムラとパル。

 

「……んだよ」

「へ?」

「お返しどうすればいいんだよ!!!」

 

肩を掴まれ、目をギラギラさせながら叫ぶノイマンに、パルはぎょっとして声を失う。

 

「ノ、ノイマンさん、落ち着いてください!!」

 

怯えるパルの代わりにトノムラが言った。しかし、彼も相当怯えている。いつも冷静なはずの上官がご乱心なのだ、無理もない。

 

「お返しってなんのですか?誰に?」

「この時期にホワイトデー以外になにがあるんだ!バジルール中尉が満足してくれるお返しはなんだ?!」

 

ノイマンの言葉に顔を見合わせる二人。きょとんとした後、すぐに笑いがこみ上げてきた。

 

「あぁ〜!!!なんだ、ホワイトデーですか!」

「なんだとはなんだ!!大切なことじゃないか!!!」

 

今度は笑い出したトノムラに掴みかかり、その長身をぶんぶんと揺さぶる。

トノムラは慌ててノイマンの手首を掴み、やんわりと解いた。

 

「わかりましたぁ!!とりあえず落ち着いてください。」

「バジルール中尉にお返しですか?」

 

ノイマンはやっと落ち着きを取り戻し、深呼吸をした。

 

「あぁ、お前らも返すんだろ?何返すんだ?」

「俺はもらってないから返さないけど…トノムラは?」

「ん?あぁ、こんな状況下で大したものは用意出来ないからなぁ…。あ、そうだ!」

 

トノムラは頭を掻きながら何かを思いついた。

 

「今回はオーブの習慣なんでしょ?カガリちゃんに聞いてみません?」

「なるほど…よし、聞きにいくか…」

 

こうして三人はカガリのもとへと向かって行った。

 

 

「ホワイトデーにお返しであげるもの?」

「そう、一般的には何をあげるんだい?」

 

格納庫で整備班と雑談していたカガリを捕まえる。

カガリは首をかしげながら考えていた。

 

「う〜ん…一般的にはキャンディなんだが、マシュマロ、あとはホワイトチョコでもいいんだ。ホワイトデーってことで、白いものを贈るのがいいらしいぞ。」

 

なるほど、と納得する三人。するとカガリはにやにやしながら小声でしゃべる。

 

「で?今回本命に返す奴はいないのか?」

 

次の瞬間、ノイマンだけが吹き出した。他の三人の視線がノイマンの方へ一気に集中する。

 

「ほ〜…ノイマン、お前本命に返すんだな?」

 

カガリはにやにやと笑いながらノイマンににじり寄った。

 

「へ〜、そういえばバジルール中尉がどうのって言ってましたよね?」

「バジルール中尉?」

 

トノムラの無意識発言で本命が誰かまでばらされたノイマン。

 

「あの姉ちゃんに本命返しか。何が好きか知ってるのか?」

「……し、失礼しま」

 

嫌な予感がしてその場を立ち去ろうとしたノイマンの襟に手がかかる。

 

「お〜っと、逃げるのか?私は何をあげるかちゃんと答えたのに?」

「…そ、そうです…中尉に本命を返すんです!!」

 

カガリはニッコリ笑って手を離す。ノイマンは涙目で振り返った。

 

「いいか、強くていい印象を持たせるようなものにしろよ!変に高級なやつとかじゃなくてさ。」

「印象…?」

「そう。なんでも高級ならいいってもんじゃないからな。いい結果期待してるぞ!」

 

そう言って、カガリは再び整備班のもとへ戻っていった。

 

「印象かぁ…どうしようかな。」

「とりあえず、トノムラよりは印象深いものを贈るよ。」

「…大丈夫ですよ、俺は他の子に気合入れるんで。」

 

三人はそれぞれ部屋に戻り、休憩に入ることにした。

 

 

当日。

 

「今日は何日だ?!14日か?!やばい!!アレから何も用意してない!!」

 

朝、ノイマンはベッドから起き上がって叫ぶ。当然誰もいない。それでも彼は一人の空間で叫び続ける。

 

「中尉のシフトは??うわ、同じ時間だ!用意してる時間がない!!」

 

時計を見ると、あと30分でシフトに入る時間だった。

 

「あぁぁぁ!勤務中に何か考えなければ!!」

 

…本来そんなことを考えながら仕事をすべきではないのだが、今のノイマンにはホワイトデーのお返しが全てであった。

 

 

「おはようございます。」

「おはよう少尉。なんだか疲れた顔してるわね?」

 

艦橋にはいると、最初に顔を合わせたマリューにこう言われた。

 

「あ、いや、大丈夫です…。」

「そう?あなたには人一倍働いてもらってるから、しっかり休んで欲しいんだけどね。」

「ありがとうございます…ん?」

「どうかしたの?」

「…あ、いえ、なんでもないです!」

 

ノイマンは慌てて操舵席に着く。

先ほどのマリューとの会話で何かをつかんだらしい。

 

(しっかり休んで、か…)

 

 

こうして長時間に及ぶシフトが終了した。

引継ぎを終え、ノイマンが向かったのは食堂だった。

 

「よ〜ぅノイマン、何か考えたのか?」

「カガリちゃんか。まぁ、一応。」

 

食堂には昼寝をしていたカガリがいた。

 

「頑張れよ。」

「…ありがとう。」

 

ノイマンは、マグカップを持って、食堂を後にした。

 

 

「では艦長、あとをよろしくお願いします。」

「えぇ。ちゃんと休んでね、あなたも疲れてるでしょう?」

「はぁ…。」

 

ナタルはマリューとの引継ぎを済ませ、艦橋からまっすぐ部屋に戻った。

 

「…疲れた…」

 

部屋に入りそう呟くと、机に置かれた、まだ手付かずの書類数枚に目をやる。

 

(あと三枚か…終わらせてしまおう。)

 

ため息を吐き、椅子に腰掛け、目を細めて書類を睨んだ。

 

 

すべての書類に目を通し、疲れた身体を椅子に座ったまま伸ばしていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

「中尉、いらっしゃいますか?」

「ん?」

「失礼します。」

 

入ってきたノイマンは、手に二つのマグカップを持っていた。

 

「お疲れ様です。…書類整理ですか?」

「あぁ、今終わったところだ」

「ちょうどよかった。あの、これ…」

 

ナタルの手元にそっとマグカップを近づける。

ふわりと甘い香りが広がった。

 

「…ココアか?」

「はい、その、疲れた時には甘いものがいいと思いまして…」

 

そっとノイマンからカップを受け取る。ココアの中には、溶けかけのマシュマロが入っていた。

 

「ありがとう、ちょうど、甘いものが欲しかったところだ」

「…はい、あの、中尉。」

「なんだ?」

「…しっかり、休んでくださいね。」

 

そう言って、もう一つマシュマロを入れた。

 

「では、失礼します。」

 

ナタルは微笑んで黙ったままノイマンを見送り、扉が閉まると、そっとココアを口に含んだ。

 

 

「副長さん!」

 

カップを戻しに食堂に足を運んだナタルは、後ろからカガリに声をかけられた。

 

「どうした?」

「いや、ホワイトデーのお返し、なにもらった?」

 

ナタルは驚いてカレンダーを見る。

 

「あ、今日はホワイトデー…だったのか?」

「忘れてたのか?じゃあまだもらってないの?」

 

ふと考えるナタル。そっと振り返り、カガリにたずねる。

 

「普通、ホワイトデーにもらうものはなんだ?」

「ん?あぁ、白いお菓子だよ。キャンディやらチョコ、あと、マシュマロとか…」

「マシュマロ…」

 

ノイマンから受け取ったココアに、マシュマロが入っていたことを思い出す。少し頬を染め、微笑んだ。

 

「じゃあ、もらったな。」

「マシュマロなのか?それだけ?」

「…いや、気持ちが詰まったマシュマロをもらったんだ。」

 

そういい残し、カップを戻して部屋へと戻っていった。

 

「…なにやったのか知らないけど、うまくいったみたいだな。」

 

カガリも笑って格納庫へと足を運んでいった。

 

 

「しっかり休んで…か。」

 

それはなんの変哲もないココアで、ちょっと多めにマシュマロが入っていただけ。

 

それでも、たくさんの気持ちが詰まっていた。

 

どんな高価なものよりも、心のこもった贈り物。

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

あ〜終わったというか終わらせた!!なんとか間に合った!!

というわけで、お返し編です。もう余裕なくてめちゃくちゃになってしまいました。文もキャラもひどい!!

今回はカガリを入れてみました。よく考えたらパロ以外でカガリを絡ませたことなかった。初ですね。

最初はギャグでだったのに、ラストまでギャグで通せなかったですね。中途半端ですね…

後半切羽詰まってきたので、もう裸のノイマンでもナタルの部屋に投げ込んでしまおうかとか考えたんですが…

以前出掛け先のド○ールコーヒーで、マシュマロラテを見かけた(前に一度飲みましたが)ので、これはいい!!と思って使いました。

次はもうちょっとまともなもの書きます…。

 

 

 

☆おまけ☆

 

数時間後の食堂にて。

 

「おい、トノムラにチャンドラ。」

 

「あ、バジルール中尉…」

 

「今日はホワイトデーだが、お前たちは何をくれるんだ?」

 

『……あ』

 

「アーガイルはさっきキャンディの詰め合わせをくれたんだが…」

 

「え?!(抜け駆けしたな?!)」

 

「…いや、いいんだぞ、ないなら…そうか、私のは美味しくなかったのか…」

 

「そそそそ、そんなことは!!」

 

「ないですよ、中尉、これをどうぞ。」

 

「!?チャンドラ、お前…」

 

「おぉ、ホワイトチョコか!ここのチョコは美味しいんだ、ありがとう。」

 

「トノムラも渡せよ。」

 

「〜〜〜〜〜、すいませんでしたぁぁ〜〜!!」

 

「…忘れていたのなら、素直に言えばいいものの…」

 

「そうですよね…」

 

 

ナタルだってお菓子持ち歩いてたんだから、みんなが持ってても不思議じゃない…

きっと、お菓子調達ルートとかあるんだよ、アークエンジェルには!!←ないだろ。

 

 

 

 

 

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