1.ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間





大きな爆発音の後、爆風に呑まれる身体。

 

気が付けば、辺りは真っ暗だった。

 

流れてくる破損物、そして…

 

自分と同じ服に身を包む、死体……。

 

それはザフトの襲撃が生んだ、突然の悲劇だった。

 

 

「…くそっ!!」

 

身体のあちこちが少し痛む。どこを打っていてもおかしくはないだろう。

幸い軽い痛みだけだった。動くことに支障はないみたいだ。

 

「誰かいるか!?」

 

俺は叫んだ。無我夢中で。

誰でもいい、とにかく生存者を探さなければいけない。

 

「誰か!!」

 

背後から物音がした。

 

「ノイマンさん!!」

 

そこにいたのは、数時間前一緒にいた人間だった。

 

「トノムラか?!」

「はい!ノイマンさん、無事だったんですね!」

 

初めて会った生存者だったのか、安心した顔でこちらに流れてくるトノムラ。

 

「だいぶ彷徨ったんですが…かなりやられたみたいです。」

「そうか……くそっ!ザフトの仕業か…。」

「間違いないですね。…あれ?ノイマンさん、少尉と一緒じゃなかったですか?」

 

トノムラの一言にはっとする。

そうだ、俺は、ずっとあの人と一緒にいたはずだ!!

 

「そういえば……!!」

「の、ノイマンさん?!」

 

なにかを言う前に身体が動いた。

 

「俺が生きてるんだ、あの人だって、生きているはずだ!!」

「な…無茶ですよ、ノイマンさん!!」

「少尉を探す!!お前は他の生き残りを探せ!!見つかり次第、アークエンジェルで合流だ!!」

 

トノムラの返事を聞く前に、俺は走り出していた。

 

 

どのくらい移動したのか、ここがどこなのか、よくわからない。

生存者も1人もいない。

あの人は…もしかしたら……そんな嫌な予感が頭をよぎる。

信じたくないが、あの時、自分と反対に流れていった。

 

「少尉!!バジルール少尉!!!」

 

―カタンッ―

 

一瞬、物音が聞こえた気がした。

 

まさか…!?

 

「少尉!?」

 

しかし、もう物音はしない。

気が立っているせいなのか、空耳なのだろうか…

 

目の前に映ったのは、歪んだ扉だった。

 

その時、何かを感じた。

 

気が付くと、思い切り扉に体当たりしていた。

歪んだ扉はなかなか動かない。

 

(くそっ!トノムラ連れてくるんだったな…)

 

自分より図体のでかい奴だ、もう少し簡単に突破できただろう…

 

何度も体当たりし、ようやく扉が外れる。

すぐに懐中電灯を照らす。

 

「!?」

 

生存者らしき影だ!確かに動いている。眩しそうに光を遮る人影…

 

「!!!!バジルール少尉!?ご無事で!!」

 

そこにいたのは、ずっと探していた、彼女だった。

 

「…のい、まん…?」

 

近寄ると、彼女もゆっくりとこちらに流れてくる。

 

「大丈夫ですか?お怪我は…」

 

その身体を支えるように肩を掴む。

 

「……少…尉?」

 

そっと顔を覗く。

目元が少し腫れている。

頬には涙の跡。

身体は震えていて…

見たことのない彼女がここにいた。

 

「少尉…」

 

何も考えられなかった。

とにかく、今は…

彼女を抱きしめることしかできなかった。

 

「ノイマン…曹長」

「…トノムラも生きています。おそらく、まだ数人は…。しかし、士官がいません。」

 

彼女の肩を掴んだまま、身体を解放する。

 

「少尉、ご指示を!!」

 

本当は、もっと彼女を抱きしめていたかった。

でも、今はその時ではない。

元に戻れ、少尉!

 

「…アークエンジェルへ、艦の無事を確認する!!」

 

一瞬で、元の彼女に戻った。

 

 

あの時の物音は、偶然か、それとも…

 

そんなことを考えながら、彼女の後を急ぐ。

 

考えたところで答えは出ないだろう。

 

あの瞬間が偶然でも、彼女が出したサインでも…どちらでもいい。

 

生きていてくれた、それだけに意味があるのだ。

 

俺は顔を上げ、彼女を視界から消さないよう、追った。

 

 

 


 

 

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